数年内に人間並みの汎用的な知能を持つAGIが出来上がるといわれています。「歴史的に見ても、とてつもない変化が起こっている!」と感じます。
そうした中で、むくむくと「我々の脳」そのものに対する関心も強まってきました。
そんな時期に、本屋さんでたまたま【脳は世界をどう見ているのか(A Thousand Brains: A New Theory of Intelligence)】という本書を見つけ、思わず手にとり、購入しました。
読んだ後、本当に、世の中の見方が変わりました。ダイエットや禁煙が成功しにくい理由や、陰謀論的なものが広がる理由が、脳の仕組みから見えてきます。
ざっくり、わたし自身がぐっときた部分を中心に紹介しますね。
【脳は世界をどう見ているのか】感想:世の中の見方が変わった
世の中を見る上で、我々の脳の仕組みの中で、次の2つの点が重要です。
- 我々の脳は、古い脳のまわりに新しい脳ができた
- 新しい脳は、学習を通じて、世界のモデルを作っている
順番に解説していきますね。
脳の仕組み① 我々の脳は、古い脳のまわりに新しい脳ができた
わたしたちの脳は、進化の過程で、古い脳の上に新しい脳が加わってできてきました。
古い脳が占める割合は、30%ほどだそうです。ワニなどの爬虫類と同じ仕組みの脳が、我々の根幹にあるわけです。
古い脳は、本能的なことをつかさどっていて、その目的は「遺伝子を増やす」ことのみ。
そこに、新皮質と呼ばれる新しい脳が加わりました。新皮質は非常に優秀で、学習を通じて色々なことを学びます。人間の技術力が向上し、文明社会を築けたのは、この新皮質のおかげです。
新しい脳には非常に有能ですが、ただ、モデルそのものには目標や価値観はありません。古い脳が感情を持つことで、新しい脳は動きます。たとえば古い脳が攻撃的な感情を持てば、新しい脳は、人を攻撃するために使われます。
なんだか、怖いですよね。
我々は進化したと思いつつ、実は、その行動は、30%を占める古い脳に操られているわけです。
なぜダイエットや禁煙が成功しにくいのか
そう考えると、なぜダイエットや禁煙が成功しにくいのか、なぜ勉強が継続しにくいのか、色々な理由が見えてきます。
新しい脳は、本を読み学習し、「これ以上太っては健康に悪いし、見た目にも悪影響だ。よし、やせよう」と思うとします。
ですが古い脳は、そんなこと理解してくれません。「いつ飢餓が起きてもいいように、カロリーが高いものを食べておくんだ。遺伝子を残すために、最高の戦略だ!」と指示を出し続けているわけです。
残念ながら、新しい脳は古い脳に導かれているので、なかなか意見を通せません。
かくして、我々の理性による決定は、本能による指示に負けてしまいがちなわけです。
ダイエットや禁煙なら個人レベルの小さなことです。ただ、この古い脳と新しい脳による問題は、より大きな物事にも影響を及ぼしています。
たとえば「戦争」です。古い脳は、遺伝子を増やすために、敵を倒して領地を広げようとします。原始的な武器だけで戦っている分には、その地域にしか影響はありません。ですが、今、我々は新しい脳のおかげで核兵器などの恐ろしい兵器を作ってしまいました。
古い脳の衝動に突き動かされて、こういった恐ろしい武器を手にしてしまえば、地球規模のおそろしい災難が起こります。
他にも、古い脳と新しい脳のタッグは、地球への環境破壊等、人類にとって最悪なシナリオを実現しつつあります。
壊滅的な事態を避けるには、我々ひとりひとりが、この古い脳と新しい脳の仕組みを知っておくこと、そしていかに古い脳の影響を避けるか意識することが重要です。
脳の仕組み② 新しい脳は、学習を通じて、世界のモデルを作っている
ここまで、古い脳と新しい脳について見てきました。
次に、新しい脳についても、もう少しみていきます。新皮質は、学習を通じて、世界のモデルを作ります。そのモデルを通じて、身の回りに起こることに予測をたてていきます。
学習後は、我々はすべて、何かを行う前に「予測」を行うようになります。本当につまらない日常的なことでも、すべてに対して、予測を行います。
どういうことかというと、赤ちゃんの時期は、モデルはなく、真っ白な状態です。そこで、たとえばコップを何度もさわって、倒したりしていく中で、感覚を通じて、コップについて学習します。学習後は、コップを触る前から、「これは触ったら、硬くて、冷たいな」と予測をたてます。
予測と違って、コップが柔らかかったりすると、その時、新たに学習を増やします。
つまり、絶え間なく学習をし続けるわけですが、この学習を通じて、様々なことに対して、この世界に対するモデルを作っていきます。このモデルは、「信念」となります。
新皮質がもたらす新たな危険性
これ自体は合理的なシステムですが、ただ、ここにも危険性があります。というのも、新皮質が作る世界のモデルは、必ずしも正しいわけではないからです。
ですが我々の新皮質は、直接経験できないことについては、一度信じたことを変えにくい性質があります。また、自分が信じていることを、人にも広める習性があります。
たとえば、人間は長い間、太陽が地球を回っていると信じていました。地動説を唱えたガリレオは、こてんぱんにやられました。
天動説を信じている人は、そう簡単に異なる意見を取り入れることができなかったのです。
今でも、たとえば、「気候変動は本当は起こっていない」と主張する人たちがいます。陰謀論的なことを主張する人もいます。こういった人たちは、この新皮質の習性を受けていると考えられます。
こういった新皮質の習性もまた、世界を平和にして、地球の環境を守る上で、脅威となります。
我々ひとりひとりが、自分の「世界のモデル」には間違えが含まれている可能性があると意識することが重要だと感じます。そうすれば、反論にしっかり耳を向けることができ、間違った信念に固執せずにすみます。
AIと人間の違い
ざっくりと、2つの脳の仕組みを、書籍をもとに解説しました。
ここまで書いたことをもとに、AIと人間の脳の違いについても書いていきます。最近AIの進化が著しく、近い将来に人間を超すことも予想されています。ただ、AIと人間の脳は、同じにはなりません。それは、次のような理由のためです。
- AIには古い脳が存在しない
- AIは身体を通じて学習しない
ひとつずつ解説していきます。
まず、AIには、人間のような「古い脳」が存在しません。言ってみれば、新皮質だけです。そのため、人間と同じような感情は持てません。(持っているフリはできそうですが)
つまり、人間のように古い脳にふりまわされない判断ができます。
また人間の新皮質は感覚を通じて学習していきますが、AIの場合には体がないので、ロボットを使わない限り「感覚」を使った学習はできません。つまり人間と同じように学習はできません。そのため、学習結果も人間とは異なるものとなります。
たとえロボットを使って学習したとしても、人間とまったく同じように学習するのは難しいでしょう。というのも、人間の新皮質には15万もの皮質コラムがあり、各コラムが身体の各部位とつながって感覚を受け取り、これを通じて学習しています。AIにも人間と同じ感覚を持たせ、これを通じて学習をさせるのは将来的には不可能ではないかもしれません。ですが、効率が良いとは言えません。
そういった理由から、AIの脳は、人間と同じようにはならないでしょう。
といいますが、人間自体が古い脳との葛藤や、老化による影響に悩んでいるわけですから、人間と同じにする必要がないですよね。
さいごに
本書を通じて、脳について、技術的な面、世界の見方、そして今後について広範囲にわたることを学べました。自分自身の仕組みを理解することは、これからのAI時代を生き抜く上で重要だと感じました。
なお本記事では、脳の技術的な部分、たとえば新皮質はすべて同じようにできているものの、どことつながっているかで機能が変わる、といった説明は割愛しました。
わたしのつたない説明では、正確にお伝えできない可能性があると感じたので^^;
「もっと詳しく知りたい!」と思ったら、ぜひ、本書を読んでみてくださいね。あなたの世界の見方が変わってきます。