今、インフレがどんどん進んできています。日本円の価値もびっくりするぐらい変化しています。数年前まで1ドル120円が普通でしたが、今は150円後半。30パーセントも下がってしまったことになります。
これまでのシステムは維持できるのかな?
こんな疑問を抱く中で、本屋さんで、岩井先生の「資本主義の中で生きるということ」を見かけました。
著者の岩井先生は経済理論の分野で卓越した業績を持つ第一人者です。この先生が資本主義について分かりやすく、コラム形式で語ってくれる内容になっています。
タイトルは重い感じですが、5ページごとのコラム集みたいな感じで、わりとさくさく読めます。
うっかり立ち読みしたところ面白くて、買わずに立ち去ることができなくなりました。
わたしの興味をもった部分を中心に、本の内容をご紹介しますね。
資本主義ってこの先どうだろう?
資本主義は通貨を基盤として、人間の「欲」を使って動かすシステムです。人の本性と相性が良いシステムなので、他のシステムよりも存続できたのだと思います。
ただ、人間の欲に支えられている「通貨の価値」は、本来、非常に不安定です。本の中では次のように書かれています。
なぜ貨幣は価値をもつのか?それは、すべての人が他のすべての人が貨幣として受け取ってくれると期待しているからにすぎない(中略)。
期待は不安定です。他の人が受け取ってくれないと皆が期待すれば、その瞬間に貨幣は貨幣でなくなります。ハイパーインフレの歴史が示すように、国家が権威付けしていても、お金はただの紙になりえます。
「資本主義の中で生きるということ」(筑摩書房、2024年出版、岩井克人, pp118-119)
通貨の価値は、「他の人が貨幣として受け取ってくれる」という「期待」によって定まっています。
ですが一度その期待がくずれれば、インフレ⇒ハイパーインフレになってしまうというわけです。
インフレやハイパーインフレは資本主義と不可欠の関係にあるという、なんとも恐ろしい現実ですね。今わたしたちが体験しているインフレや物価高は、やむをえない状況ともいえます。
そしてこんな時代だからこそ、従来の通貨以外に安心できる資産を求めて、仮想通貨の価値が上がっているのでしょう。
仮想通貨は通貨になるか?
では仮想通貨は、「通貨」として流通できるようになるのか?
岩井先生は早くから仮想通貨に注目してきましたが、結局、仮想通貨は通貨にはならず、投機資産だという位置づけをしています。
本書では、次のように書かれています。
貨幣について、私の「基本定理」があります。あるモノが貨幣として流通しているときには、貨幣としての価値はモノとしての価値を必ず上回る」という定理です。
「資本主義の中で生きるということ」(筑摩書房、2024年出版、岩井克人, pp137)
ですがビットコインは物としての価値が上回り、貨幣として流通しない状態になってしまった。つまり通貨になる可能性がなくなったというわけです。
一理あると感じます。現在仮想通貨は、金などと同様、通貨というよりインフレ対策用の資産であったり、投機商品としての側面が強くなっています。
とはいえ、今後、税制ルールなどが変わると、流通の状況が変わる可能性もあるかなとは思います。また個人的にはビットコイン以外の通貨の動向にも注目しておきたいです。
基軸通貨はドル以外になるか?
なお今は、基軸通貨である米ドルについても、色々とささやかれています。では、もし米ドルの価値が失墜した場合には、他の通貨がドルに代わることができるのか?
本書において、岩井先生は、そこには疑問を呈しています。結局のところ、基軸通貨もまた期待で成り立っています。みんなが「ドルは他の貨幣と交換可能」と期待しているので、ドルは基軸通貨たりえます。
現状では、他の通貨では、そこまでの信頼を勝ち得ることは難しい。
もし今後、ドルの信用が著しく落ちた場合には、ビットコインをモデルにした暗号通貨が作られ、それが新たな基軸通貨として流通しはじめる。そういった形でビットコインの思想ではなく、技術が活用される可能性があるかもしれません。
参考:「資本主義の中で生きるということ」(筑摩書房、2024年出版、岩井克人, pp144)
とりあえずのまとめ
資本主義と仮想通貨というポイントにしぼって、本の内容を少しご紹介しました。
書籍を読んだ結論としては、資本主義は実は不安定がセットなシステムなので、混乱が起こるのは仕方ない、ということになります^^;
ただ、本書のような書籍を読んで、自分の頭で状況を理解できるようになると、ふりまわされることが少なく、物の見方も変わってくるように思います。
なお本書は仮想通貨部分がメインというわけではありません。日本型会社システムについてなど、色々な面に言及されています。
「今のシステムについて、根本から考えてみたい。第一人者から学んでおきたい。」
そんなふうに思う方に「資本主義の中で生きるということ」はおすすめ。気になったら、まずはパラ見してみてくださいね。